書道のコラムです。


書道コラム

非常に真面目な書道の話です。(普段はもっと不真面目です。)


 

逆入平出の法による王羲之の説明

逆入平出の法というものがあります.清の包世臣という書家が掲げた用筆法で,ことばでは簡単に説明することは難しいのですが,起筆で進行方向と逆方向に打ち込み,そのまま進行方向と逆方向に筆管を傾けながら送筆するといった,蔵鋒の特殊なものです.

この法は趙之謙へと受け継がれ,日本では西川寧が好んで使うようになります.西川寧は趙之謙に憧れ,この逆入平出の法に辿り着いたということのようです.二者とも,主に隷書や造象記といった碑文を書くときに用いており,線の強さが特徴的です.日本ではこの西川寧に学んだ多くの書家がこの法でもって作品を書いているため,今日に見られる篆・隷・楷の作品の多くがこの法を元としたものになっています.

包世臣という書家は独特な人で,中々つかめないのですが,その作品を見てみると,上記に挙げたような碑文的な作品ではなくむしろ,側筆を多用した柔らかい作品の方が多いように見受けられます.臨書では孫過庭の書譜を書いており,草書への関心が高かったようで,趙之謙のイメージとは異なるものです.

私の主張としては,実のところ包世臣は孫過庭の研究,すなわち王羲之の研究に力を入れていて,逆入平出は王羲之の書法を解明しようとした結果なのではないかと考えています.通常側筆というのは弱く映るため,上手く使わなければならないのですが,包世臣の,特に行草の作品については,ほとんどが側筆で書かれており,それでいて強い線で書けているわけです.これこそが逆入平出の法であるということです.包世臣は,王羲之が側筆を使っているということに着目したのでしょう.
具体的には,側筆の状態から,筆を押し出すようにゆっくりと運筆するということをしており,実践してみるとこれが中々難しいのですが,書の線の表現としては習得しておいて損はないものであるとは思います.

(執筆担当: F. H.)

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